専門家(保育士、言語聴覚士、作業療法士等)が、発達についての“あれこれ”を記事にしていきます。


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 第3回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その2)サブタイトル:インリアルアプローチの基本となる姿勢(基本編)



第1回 「コミュニケーション」って何だろう?

 

 ここ最近、コミュニケーション力という言葉を、テレビやネット、雑誌でよく見聞きするようになりましたね。

でも、よく見聞きする言葉でも「コミュニケーションって何だろう?」と、言われるとすぐにこたえられる人は少ないのではないでしょうか。

日本では、「コミュニケーション=会話、情報伝達」と一般的に訳されますが、“communication”の語源は、ラテン語の“communis(com=共有・共に、munus=贈り物)で、「共有すること、分かち合うこと」と言われています。

 

communis

(com=共有・共に、munus=贈り物)

 

ことばの語源を知ることは、コミュニケーションの本質を理解する上で重要です。

 

つまり、「コミュニケーション」とは、相手が話したり書いた言葉に限らず、動作やしぐさ、はたまた絵(おえかき)や歌でも伝えようとしていることを受け手が感じ、その意味を共有できることが、communication本質ということになります。

 

しかし、今の日本では、“communication”は、単に「上手に相手に言葉で伝えられるようになること」ということでとらえられていることが多いと感じます。

 

「コミュニケーション」で、大切なことは、ただ情報を伝えるだけではなく、相手が伝えたい意味や感情をお互いが心で通じ合い情動を分かち合う関係を築いていくことです。

 

言葉がまだ十分に話せない赤ちゃんでも、お父さんやお母さんの言ったことに言葉では返せなくてもきちんと反応することで、立派にコミュニケーションが成り立っています。

 

発達障害の子どものことばの相談を受けた際に、「言葉が話せないのでコミュニケーション出来ません…」「この子は、まだ話せないからコミュニケーションが取れなくて…」といったお話を聞くことがありますが、そのように周りから思われている子ども達と関わってみると、実は、その子なりの方法でしっかりとコミュニケーションを取ろうとしていることに気づかされます。

 

コミュニケーションで重要なことは、伝え手側「伝える力」だけではなくて、受け手側の「分かち合うこと、共有する力」も大切な要素です。

 

ことばが話せるようになるのか」、「どうやってことばを話させるか」といった不安もあるかもしれませんが、「子ども気持ち想いをいかに上手に受け取り子どもと共有していく関係性作っていくのか」という事が、実は、ことばの発達を促していく上で最も大事な姿勢だったりします。

 

ことば生まれる(育つ)ためには、子どもと大人が気持ちを分かち合い・共有するコミュニケーションを繰り返し経験していくことが大切です。

 

そのような関係性の中から、子どもの中に、他の人と気持ちを響きあわせたい自分の気持ちを伝えたい、といった心が育つことで、コミュニケーション道具としてことばが生まれてきます。 



 第2回  コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その1)サブタイトル:家庭で取り組める言葉の育て方

 

前回の記事では、ことばが生まれる(育てる)ためには、お互いの情動を共有させるコミュニケーションが大事であることをお話ししました。

 

第2回からは、そのようなコミュニケーションを子どもと取れるようになるための具体的な関わり方のヒントになる言語訓練技法である“インリアルアプローチ”をご紹介します。

 

 

インリアルアプローチは、インリアル(INREAL)は、Inter  Reactive  Learning and Communication の略で、米国コロラド大学のワイズ(Weiss,R.) らによって開発されたコミュニケーション指導法です。

 

インリアルアプローチでは、大人が子どものサイン(ことば、ジェスチャー、視線等)をうまく汲み取り、適切に反応していくことで、子どもの話したいという意欲や自分がもっているコミュニケーション手段で相手と通じ合えるという自信を育てていこうとするものです。

 

インリアルアプローチを説明に入る前に、事前の知識として、

 

コミュニケーションには、段階が4つあるということを、まずは、学んでいきましょう。

 

 

◎コミュニケーションの4つの段階

 

①聞き手効果段階

【目安となる時期】生後~10カ月頃

【コミュニケーション方法】子どもの意図を聞き手(大人等)がくみ取り解釈していく

 ②意図伝達段階

【目安となる時期】10カ月~1歳頃

【コミュニケーション方法】子どもが自分の意図(要求や考え)を何らかのコミュニケーション手段(指さし、発声等)によって伝えられるようになる

 ③命題伝達段階

【目安となる時期】1歳~1歳4カ月頃

【コミュニケーション方法】ことば(単語)で自分の意図を伝えらえるようになる

例)「ママ」、「パパ」、「まんま」、「こっち」等

 ④文と会話段階

【目安となる時期】1歳半~2歳頃

【コミュニケーション方法】言葉と言葉をつないだ文章での表現が出来るようになる。3歳頃からは大人の会話に近いやりとりができるようになる

例)「おやつ食べる」、「くるまのる」、「パパと公園でブランコに乗った」等

コミュニケーションには、段階があることはなんとなく理解できたでしょうか?

 

今、目の前にいる子どものコミュニケーション段階はどの段階だったでしょうか?

 

コミュニケーション段階を把握していくことは、これからお話しするインリアルアプローチの技法を考える時の手掛かりになります。

 

今回は、ここまで。



 第3回  コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その2)サブタイトル:インリアルアプローチの基本となる姿勢(基本編)

 

さて、ここからは本格的に「インリアルアプローチとは?」について学んでいきましょう。

 

◎インリアルアプローチの基本的な考え方

インリアルアプローチは、聞き手側(大人等)の接し方の工夫により、子どもとの相互的なやり取りを促し、その中でことばの意図の理解や表現を促していく言語指導方法(語用論的技法)の一つです。

 

自由な遊び会話の場面を通じて、子どものことばやコミュニ―ション能力を引き出すために、日常の生活の中にも取り入れやすいことも特徴です。

 

 

「言葉が遅れている、、、。」

「言葉の発達が心配、、、。」

 

そのような悩みを身近な支援者に相談すると、言語の訓練を勧められて言語訓練に通っている方は多いと思います。

では、皆さんは、言語の指導(訓練)にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 

言語の指導(訓練)は、病院などの個室で先生と子どもが机を挟んで一対一の対面で向き合って言葉の指導(訓練)を受けるものというイメージをお持ちではないでしょうか?

 

現に、多くのセラピスト(言語聴覚士等)は、個別の言語指導(訓練)をそのような形で実施しています。

 

では、利用者側ではなくて、言語聴覚士側が考える言語の指導(訓練)をQ&A形式で考えていきましょう。

 

Q.「言語の指導(訓練)は、個室で一対一でないと出来ない?」

A.答えは、Noになります。

 

Q.「病院や福祉施設で、言語の先生の個別訓練を受けないと言葉は伸びない?」

A.答えは、Noになります。

 

Q.「言語の指導(訓練)は、家庭(日常生活の中)でも出来る?」

A.答えは、Yesです。

 

でも、言語の指導(訓練)が家庭の中でも出来るなんて、そんなこと言われても難しいですよ!!

そ、そうですよね。。。

 

家庭の中でも出来るって簡単に言われても、時間もない、場所もない、教材もない、そもそもどうしたらいいのか分からない。

 

なんてことを思われたのではないでしょう?

 

でも、わたしたちは、子供の頃にことばをどんなところで学んできましたか?

 

「子どもの頃に、言葉の先生(言語聴覚士)にことばを教えてもらいましたか?」

 

お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟姉妹、保育園の先生等、まわりの人たちが話すことばを聞いて自然に学んでいったのではないですか?

 

ことばの学習は、実は、日常生活の中にこそたくさんの学びの機会があるのです。

 

そして、それは、言葉の発達がゆっくりな子ども達も同じです。

 では、どうしたら言葉を伸ばせるのかのかその具体的な方法がインリアルアプローチになります。

 

前置きが長くなり ました。

 

最後に、今回の記事で覚えていただきたいことを書かせていただいて今回のまとめとさせていただきます。

 

キーワードは、「SOUL」、これだけは、しっかりと覚えて下さい。

 

「SOUL」とは、インリアルアプローチの中で、子どもと関わる時の基本的な姿勢を表しています。

S Silence静かに見守る

 

子どもが場面になれ、自ら行動を始めるまで「静かに見守る」姿勢

 O Observationよく観察する

コミュニケーション能力や情緒、認知、社会性、運動など発達状況を「よく観察する」姿勢

U Understanding深く理解する

子どものコミュニケーションの課題や問題について「深く理解する」姿勢

L Listening耳を傾ける

子どものことばやサインに十分に「耳を傾ける」姿勢



第4回  コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その3)サブタイトル:インリアルアプローチの技法(基本編)

 

前回の記事では、インリアルアプローチの基本的な姿勢を説明しました。

今回は、インリアルアプローチの技法を説明したいと思います。

 

インリアルアプローチでは、以下の技法を用います。

①ミラリング

②モニタリング

③パラレルトーク

④セルフトーク

⑤リフレクティング

⑥エキスパンション

⑦モデリング

 

それでは、それぞれの技法について、詳しく見ていきましょう。

 

①ミラリング

内容:子どもの行動を真似していきます。

例)子どもが手をあげたら、大人も同じように手をあげます

 

②モニタリング

内容:子どもの発した音声を真似していきます。

例)子どもが「あー」といえば、大人も子どもの視線に合わせて「あー」といいます。

 

③パラレルトーク

内容:子どもの気持ちや行動を言語化していきます。

例)子どもが動物園で、キリンを指さしたら、大人は「キリンさんだね。」と言葉をかけます。

 

④セルフトーク

内容:大人の気持ちや行動を言語化します。

例)子供とご飯の時間にハンバーグを食べた時に、「ハンバーグ、美味しいな」等、大人の気持ちを言葉にして伝えます。

 

⑤リフレクティング

内容:子どもの言い誤り(発音や文法)に対して、正しい言葉を大人が代わりに言い直して聞かせてあげます。

例)子どもがエレベーターを間違えて「エベレーター、乗る」と言った時には、「エレベーター、乗ろうね」。と、否定せずに正しい言葉に置き換えて伝えてあげます。

 

⑥エキスパンション

内容:子どもの言葉を意味的に広げて返します。

例)子どもが車遊びをしているときに「ブーブー」と言ったら、大人は「ブーブー、走っているね!」等のように言葉の要素を付け加えて表現を広げて提示してあげます。

 

⑦モデリング

内容:新しい言葉のモデルを提示します。

例)リフレクティングやエキスパンションは子どもの話した言葉に要素をつけ足して言葉の表現を広げるのに対して、モデリングは新たな言葉のモデルを提示していきます。

インリアルアプローチの7つの技法は、用途(何を目的とするのかに合わせて分類すると幾分覚えやすいかなと思います。

 

1つ目は、「模倣」

①ミラリング(行動)

②モニタリング(音声)

 

2つ目は、「言語化」

③パラレルトーク(子どもの行動の言語化)

④セルフトーク(自分の行動の言語化)

 

3つ目は、「子どもの表現力の広がり」

⑤リフレクティング(既存の子どもの言葉の誤りの修正)

⑥エキスパンション(意味や文法を広げる)

⑦モデリング(新しい言葉をモデルで示すこと)

はじめは、一連の技法の中身を覚えることや子どもとの関りの中でタイミングよく技法を使いこなしていくことはとても難しく感じるかもしれませんが、繰り返し取り組むことで徐々に意識せずに上手なコミュニケーション(言葉の発達支援)ができるようになります。

 

 因みに、言語聴覚士が子供と関わる時には、子どもの反応を見ながらその時々で最適な技法を選択しながら言葉の発達を促しています。

 

 

保護者さんの中には、言葉の勉強に来ているのにただ遊んでいるだけでいいのかしらと心配になる方がいるようですが、インリアルアプローチの技法を知ってもらえるとただ遊んでいるだけではなくてコミュニケーションや言葉を伸ばすアプローチをしていることに気づいてもらえるのではないでしょうか。

 

子どもと一緒にニコニコと笑っている言語聴覚士さんの頭の中は結構忙しく働いています(笑)

 

 

日々の何気なくしている言葉かけや関わりも、突き詰めていくと奥が深いですね。 

 

最後に、インリアルアプローチは、特定の課題や学習法というよりは、日々の子どもとの関わりにおける工夫と言えます。

 

あくまで、言葉の発達を支援する基本となる考え方と思ってもらえると良いかなと思います。

何事も、基本が大事ということで、基本が出来ればそこからいくらでも応用していく事が出来ます。

まずは、このインリアルアプローチを日々の生活の中で取り入れてみてはどうでしょうか?

 



第5回 石を積む職人(寓話)

「石を積む職人」という有名な寓話があります。

 

教会を造っている場所を通りがかった旅人が、

石を積む職人に、「何をしているのですか?」と尋ねます。

 

1人目の職人は、「自分の暮らしの為に、石を積んでいるところさ」と答えました。

 

2人目の職人は、「壁を造っているところさ」と答えました。

 

3人目の職人は、「教会を造っているところさ」と答えました。

 

最後、4人目の職人は、「私は、ここに来る人達が心を穏やかに過ごせる空間を創っているところさ」と答えました。

 

この4人は全て同じ石を積み上げるという仕事(職人)をしているのに、旅人の質問に対する答えはそれぞれで異なっています。

 

 

このお話から、読み解けることは、「あなたにとっての仕事とは何か?」という事です。

 

 

 1人目や2人目の職人にとっての仕事は、自分の生活を成り立たせる為や言われた事をやっているだけの作業であるということです。

 

 3人目の職人にとっての仕事は、目的を持った行為であるということです。

 

そして、4人目の職人にとっての仕事は、その仕事が生み出す価値や意味を深く考えた上で誰かの為になすといった人生の意義であるという事です。

 

 

児童発達支援センターの立ち上げを進めて行く中でもこの「石を積む職人(寓話)」は事あるごとに頭に浮かびました。

 

 

そして、ようやく今年の4月から児童発達支援センターが淡路島で唯一の施設として歩みを踏み出すと同時に新たに理念も創りました。

 

 

それは、この寓話から得られる教訓を言葉にして児童発達支援センターのこれから進むべき道を明確に定めたいという想いがあったからです。

 

 

淡路市児童発達支援センターで働く一人一人の職員が、この4人目の石積み職人のように自らの仕事が生み出す価値や意味を深く考えながら誰かの為になるような人生の意義を見つけ出せる仕事を通じて地域に貢献していけるようになることが、この児童発達支援センターを淡路島で創りこれから歩み続ける中で最終的に行き着く先であると考えています。

 

 

まだまだ、歩みは始まったばかりで道は長いですが大切な職員達と共に一歩ずつ前に進んでいけたらいいなと思っています。

 

たまには、こんな小話も記事にしてみました。



第6回 発音の発達について

言葉の発達の中で、子どもが成長するとともに話す言葉の数も増えてくると気になる問題として発音があります。

 

日本で生まれて日本語を母国語として学んできた人であれば日本語の発音は特別なことをせずともごくごく当たり前のように身につけてきた能力なので、大多数の人は日本語をどのように発音しているのかなんてこと考えたこともないでしょうし聞かれると発音の仕組みを正しく答えられる人は少ないのではないでしょうか。

 

そこで、今回は、当たり前に身に着けてきたからこそわからない日本語の発音の不思議を考えていけたらと思います。

発音を理解するためには、まず、発音の仕組みを学んでいく必要があります。

発音は、3つの要素(有声音or無声音×調音点×調音方法)の組み合わせで音の違いを作り出します。

日本語で使われる音は、全てこの3つの要素の組み合わせ方を変えることで作ることが出来ます。

例えば、子どもに関する発音の相談で多い間違え方のパターンとして

①カ行がタ行になっている場合

例)かさ→さ、いか→い

このような音の間違い方をしている子どもの発音は、上の表で考えると

調音方法は間違ていないのだけど、調音点が間違ている

ということが分かります。

このような子どもには、調音点が正しい場所になるように指導すると発音が改善します。

 

②サ行がタ行になっている場合

例)さかな→かな、サッカー→っかー

このような音の間違い方をしている子どもの発音は、上の表で考えると

調音点は間違ていないのだけど、調音方法が間違ている

と言うことが分かります。

このような子どもには、調音方法が正しくなるように指導すると発音が改善します。

次に、発音(構音)の発達には一定の順序性(法則)があります。

上の図でわかるように、発音の発達は、構音方法(調音方法)が容易な音から難しい音に徐々に完成していくといった順序性(法則)があることがわかります。

 

また、発音する音の種類(例:パ行、タ行など)によって何歳の時期にほとんどの子どもが言えるようになるといった目安もあります。

 

子どもの発音が気になった際には、上の図を参考に正常な発達から遅れているかどうかを判断してみてください。

 

ここからは、豆知識として、

実は、このような発音の発達の順序性(法則)を知らない人でも小さな子どもとのやり取りをしているときには子どもの発音の発達段階に合わせた語りかけを自然としています。

 

それは、“幼児語”と呼ばれるものです。

幼児語の多くは、パ行やマ行など発達の初期に完成する音を中心に構成されています。

例えば、「パパ」、「ママ」、「ブーブー」、「ポッポー」、「まんま」等

 

なぜ幼児語で、そのような音がたくさん使われているのでしょうか?

それは、子どもが真似しやすい音だからなのです。

 

また、小さな子どもが大好きなキャラクターといえば、「アンパンマン」がありますよね。

この言葉も、子どもが言いやすい音で構成された言葉なのです。

 

もしかすると、「アンパンマン」がこれほど人気になったのは、発音の発達と関係があるかも知れませんね。



第7回 発達障害の診断について

最近になってようやく発達障害というものが一般にも広がり以前に比べてかなり理解が進んできたように思います。

 

一方で、この発達障害という用語はあくまでも日本独自の考え方や概念であるために、国際的に用いられている診断基準には発達障害という診断名は無いということまでは知らない方もいるのではないでしょうか?

 

この発達障害という用語は、平成16年に制定された「発達障害者支援法」が元になっています。その中で、「発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候郡その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発言するもの」と明記されています。

よく誤解されがちなのですが、発達障害には知的障害は含まれていないということがこの文言から読み取ることができます。

 

また、自閉症ということを聞くと知的にも遅れているも子どもなんだねというような見方をされる方もまだまだ多い印象ですが、自閉症と知的障害にはそれぞれに診断基準が設けられていることからも自閉症の診断があるからといって全ての子どもが知的障害を伴っているわけではないことも知っておく必要があります。

 

診断基準に関してですが、我が国ではアメリカ精神医学会の診断統計マニュアル(DSM)やWHOの国際疾病分類(ICD)を用いて専門の医師が診断を行っています。

 

診断方法も身体疾患とは大きく異なり操作的診断基準によって行われています。

操作的診断とは原因が不明なために生物学的な検査方法(例:血液検査など)では判断が出来ず、臨床症状(例:こだわりが強い、ケアレスミスが多い等)によって診断をせざるを得ない精神疾患のために設けられた診断基準です。

 

診断基準に関しても発達障害や知的障害に関する研究は日々進歩しており、これまでも診断基準の改訂が何度か繰り返されてきた歴史があります。

 

現在のアメリカ精神医学会が発行する診断統計マニュアルは第5版が最新のものになっています。

DSM-5の診断基準では、自閉症、ADHD、学習障害は下記になります。

(DSN-5 精神疾患の分類と診断の手引きを参考に著者が編集)

発達障害が世の中に浸透してきたことで、少し周りと変わった子どもや大人がいると「あの子(人)は○○じゃない?」などのセルフ診断を耳にすることがありますが、多くの人はこのような診断基準があることも知らずに自閉症なら○○、ADHDなら○○といった部分的な知識だけで判断してしまっていることが多いです。

 

正確な診断に関しては、経験と知識を持ち合わせている専門の医師のもとで行ってもらうことが大事です。

 

最後に、発達障害の診断のもう一つの側面についてもお話しできたらと思います。

 

そもそも子どもは発達(成長)とともにその様相が変化していくことは当然のことであり、その結果として診断基準から外れる場合もあるのです。

 

自閉症の診断が出れば子どもは一生その診断を背負っていかないといけないから診断を受けたくないという保護者の方がおられますが、診断を受ける最大のメリットとしては公的な支援を受けることが出来るようになるということです。

 

そして、公的な支援を受けるということは、子供の発達を促していくための良い環境作りができることにつながります。

 

その結果として、何も支援を受けられなかった子どもに比べて早期から支援を受けた子どもの方が成長がより促されて当初心配していた診断名も成長と共に診断基準から外れる可能性があります。

 

 

そもそも診断がつけば確たる治療法がある疾患(例:糖尿病など)であれば診断をつけてもらうことで疾患を治すことができると多くの場合で言えるのですが。

 

発達障害(児童精神疾患)は診断名をつけてもらったからといって明確な治療法が確立されていないことからも診断名がつくことで何かが劇的に変わるわけではないのです。

 

ただし、診断名がついていない子どもに比べて様々な公的な発達支援が受けられるようになるということが診断名がつくことの最大のメリット(利点)になります。

 

子どもの健やかな発達を願う保護者が出来るのは、その子にとって発達が促されえる良い環境を出来る限り作っていくことなのではないでしょうか。

 

我が国の発達障害に対する支援は、年齢が若い(幼い)ほど受けられる支援が手厚く制度設計されています。逆に言えば、年齢が上がれば上がるほど、診断名をつけてもらっても受けられる支援の選択肢が少なくなっていくと言えます。

 

診断を受けない選択をすることが間違っているとは思いませんが、診断を受けることに迷っている保護者の方がおられたら、診断を受けるメリットもしっかりと理解した上で、保護者として、今、子どもに何をしてあげられるのかを考えてもらえるきっかけとして今回の記事が役に立てれば幸いです。

 



第8回 特別支援学校・特別支援学級・通級について

現在、我が国の特別な支援を必要とする児童に対する学校の教育制度としては、支援学校や支援学級、通級など子供の発達に合わせたクラスを選択することが出来るようになっています。

 

一方で、これらの特別支援教育は申請主義(自分から申請しないと恩恵を受けることが出来ない)に基づいており、保護者自身が動いていく必要があります。

 

ただ、保護者としてはどのように選択していけばよいのかについて具体的な情報が乏しく困っているという実情も耳にします。

 

その為、今回は学校の教育制度(特別支援学校・特別支援学級・通級)についてお話しできたらと思います。

 

現在、特別支援教育に在籍する児童生徒は年々増加の一途を辿っています。

背景には、発達障害に対する社会的認知度の向上や学校の教育制度の変容が関係しています。

 

支援学校や支援学級、通級に関しては、聞いたことはあるけれども具体的な内情はどのようになっているのかまでは知らない方が多いと思います。

 

そこで、まずは、それぞれの特別支援教育(支援学校、支援学級、通級)の対象となる児童について整理をしていきます。

 

特別支援教育における対象児童に関してですが、実は、法律においては具体的に明記されてはおらず、文部科学省が各教育機関に対して以下のような区分を参考に学校運営を行っていくようにと通達が出ています。

(文部科学省 【参考資料】特別支援教育の現状等から引用)

この通達から読み取れる情報としては、国の特別な教育支援制度は、対象児童の援助の必要性(度合い)に基づいて制度設計がなされているということです。全般的な援助が必要な児童は特別支援学校、一部援助が必要なのが特別支援学級、一部指導が必要なのが通級という具合です。

 

しかしながら、様々な理由により全国の各市町村の小中学校では文科省の通達通りに学校運営が出来ていないケースも多いのが実情です。

 

淡路市でも、 例えば、支援学校の対象となる児童であっても地域の小学校の支援学級に通っているケースが多いのですが、理由としては、淡路島には特別支援学校が洲本市に1校のみであり小学部の低学年では帰りの送迎バスの利用が出来ずに保護者が送迎をしなけれならず保護者の就労などから送迎が難しい場合には地域の小学校を選択せざるを得ないのです。

 

その他にも、支援学級の対象となる児童が普通学級に在籍しているケースも少なくありません。

その理由としては、特別な教育支援の存在や制度について保護者の知る機会が非常に限られていることが挙げられます。その為、周りの友人・知人からの情報や過去の自らの学校体験、特定の支援者やネットからの断片的な情報(少し言い過ぎだが…)などに基づいて、教育の選択を行ってしまっているのではないでしょうか。

 

一方で、特別な教育支援の制度に関する情報はよく知ってはいるのだがあえて選択しないケースもあります。

 

祖父母、父、母それぞれで意見が合わない、世間体などを気にして、支援を受けるクラスに在籍していたら将来の就労において不利になるのではないか(そのようなことはあまり無いのだが)など。

 

特別な教育支援を受けない選択をされた理由によっては仕方ないと思える場合もあるのですが、ここで大事なのは、「誰の為?」の選択なのか「誰が望んでいるのか?」、「選択したクラスでは何を学べる学びたいのか?」今一度よく考えてみると、また違った見え方が出来ませんか?

 

普通学級を選択された保護者の方からは「他の子どもと同じ空間で同じ時間を過ごさせてあげたい」という理由をよく聞くことがあります。

 

私も子どもを育てる親としてその親心は当然の想いかと思います。

 

ただ、“同じ”という見た目だけになていませんか…。と思うことも。

 

本当に大事なことは、本人が活き活きとした過ごし方や学びがそこで出来るのかということなのではないでしょうか。

 

人によってさまざまな意見があると思いますが、考えて答えを出していくために必要となる正確な情報をもっと多くの方に知っていただきたいということが今回の記事の大事なことです。

 

 

では、ここからはその情報をさらに深堀していきます。

 

まずは、支援学級についてです。

 

例えば、特別支援学級には7つのクラスに分けられていることは知っていましたか?

ある学校では、それらの支援学級の名称は○○学級(○○は先生の名称)となっていますが、同じ支援学級という呼び名でも、発達特性に分けたクラス編成がなされているのです。

 

特別支援学級のクラス編成に関しては、以下の表になります。

(文部科学省 行政説明 特別支援教育の充実について 引用)

特別支援学級では、1つの学級において、先生1人に対して子供は8人までとなっています。

 

ここからは、より具体的に支援学級の中でのクラスの編成を考えていきます。

 

クラスの選択に関しては、具体例を出します。

A君・・・自閉症と知的障害の診断がある児童

B君・・・知的障害の診断のみの児童

 

このA君とB君では選べるクラスが変わってきます。

(※本来であれば、知的障害の診断がある場合には知的障害のクラスが優先されるかと思いますが、ここでは実際の教育現場での実情に沿って話を進めていきます)

 

A君であれば、自閉症と知的障害の診断があることから、“知的障害者クラス”か“自閉症者・情緒障害者クラス”が選べます。一方で、B君は、知的障害の診断のみであることから“知的障害者クラス”しか選ぶことができません。

 

このような2名の支援学級を希望する児童が学校に在籍している場合であれば、仮に、A君が自閉症者・情緒障害者クラスを選択し、B君が知的障害者クラスを選択すると、先生1人に子供1人といった一対一での手厚い教育支援が受けられるクラスが2つ作られれますが、2人ともが知的障害のクラスを選んだ場合には先生1人に対して子供は2人の教育支援とやや手薄になってしまいます。

 

学校の全学年を合わせて支援学級を希望する児童が2~3名の規模であれば支援の手に関しては、そこまで大きな問題にならないのですが、希望する児童が増えてくると大変頭を悩ませる問題になります。

 

人数を増やした例を挙げると、例えば7人の子供が支援学級の選択を希望する場合で、もし7人の子供の全てが同じ特別支援学級のクラス(例えば、知的障害者クラス)を選択した場合、1人の先生が7人の子供を見ないといけないという状況になってきます。

年齢、障害の程度、発達段階も異なる子供たちを1人の先生が一人一人を手厚く見る事が出来ると思いますか?

 

その場合に例えば、クラスを分散させることが出来れば(例えば、知的障害者クラスと自閉症者・情緒障害者クラス)先生が一人で見なければいけない児童の数は減ることで余裕が生まれてきます。

 

ただし、本来は、それぞれの児童にとって最も支援が必要となる障害特性に合わせたクラス選択がなされるべきなのですが…。

 

通達や教育制度において国が想定した人員配置や運営と現場の実情が乖離しており量・質ともに現行のままでは対応が難しいケースもあるのではないかという印象をもっています。

 

 

その為、ここで出した事例も本来であればあまり推奨できるものでありませんが、現行の教育制度の中で必要な支援の量(教員数)を確保していくためには、解消する策がこのようなものしかないことも知っておかなければいけない真実があります。

 

 

最後に、通級という制度に関しても説明します。

淡路市では概ね週に1回1時間程度の取り出し授業にて個別対応しているケースが多いようです。

各学校に通級指導教室の先生が配属されているのではなく、拠点校に配置されている先生が曜日によって各学校を巡回し通級指導を行っています。

 

ただ、通級指導はあくまでも全般的な学習の遅れや行動面の指導が出来るわけではありません。

この部分に関しては先の項目でも述べた通り国が想定した対象以外の児童が通級を選択している場合があることから、指導内容と子どもの実態が乖離(ミスマッチ)を起こしているケースが散見されます。

 

本来であれば通級指導教室で学んだ知識やスキルを通常学級に戻った時に子供自身で発揮していくことを期待して取り出し授業を行うのですが、障害特性(知的レベルによっては学習の積み重ねに時間がかかることや一般化することが苦手等)の問題から効果的な指導が難しいのです。

 

通級を選択する児童には、一定の知的レベルがある児童でなければそもそも国の想定している時間数では指導が出来ないのです。

 

小学校を訪問している著者としては、先生にとっても子どもにとっても負担がない環境、言い換えると子どもの能力を適切に見極めて、本人の能力がより伸ばしやすい環境に整えていく役目が保護者にとっては大事なことなのではないでしょうか。

 

 

 

このように特別支援教育にはいくつも選択肢が用意されておりその中から選択していくことができます。

 

選択にするにあたっては、特別支援教育の進路の決定際にして『市町村の教育委員会は、~中略~ 最終的な就学先の決定を行う前に十分な時間的余裕をもって行うものとし、保護者の意見については、可能な限りその意向を尊重しなければならないこと』と通達文において明記されている通り、保護者の意向を尊重した上で進路の決定がなされます。

 

保護者にとっても子どもにとっても良い選択が出来るためには、事前にしっかりとした情報を知っておくことが大事です。

 

子どもにとって最良の教育環境を見つけていきましょう。

 

もし、より詳しい教育制度や実際の学校での様子などを知りたい場合には児童発達支援センターの相談等支援事業を利用していただけたらと思います。 

児童発達支援センター相談等支援事業については




第9回 療育に通う際に参考にして欲しい福祉と医療の違い

“療育”という言葉はこのサイトをご覧の方は聞いたことがあると思います。

療育を受けられる施設としては、主に福祉施設や医療機関(病院など)がありますが、その違いについてはあまり知る機会はないのではないでしょうか?

 

なんとなく、療育が受けれるならということで選んでいませんか?

そこで、今回は福祉系サービスと医療系サービスを比較しながらより療育の中身について理解を深めてもらえたらと思います。

 

まず、当施設の児童発達支援センターという施設は福祉系サービスに位置付けられています。

児童発達支援センターには、地域における発達支援の中核施設として4つの機能が求められています。

福祉系サービスと医療系サービスの違いをまとめると以下になります。

療育に通う際には、子どもの実情に合わせて必要なサービスを選択していくことが望ましいです。

例えば、保育園での集団生活の適応を促していくためには、個別療育だけでは解決しない課題もあります。その時には、福祉施設で実施しているような集団療育も候補として検討してみても良いかもしれません。

※自己負担額に関してですが、保育園の無償化期間にあたる3歳〜6歳までの児童であれば無料で利用することができます。

 

この他にも、福祉系サービスには医療機関では受けることが出来ないサービスとして、「保育所等訪問支援」というサービスがあります。

あまり聞きなれないサービスだと思いますが、実は、厚生労働省が発達支援の施策において一丁目一番地と位置付けている重要なサービス(支援)になります。

しかしながら、厚生労働省が推し進めるサービスなのに淡路島ではあまり知られていません…。

 

その理由としては、「保育所等訪問支援」を提供している施設が島内では淡路市児童発達支援支援センターを含め2箇所しか無いからです。

 

では、実施している施設がなぜ少ないのか?

 

「保育所等訪問支援」は子どもが生活をしている場(例:保育園、小学校等)に支援者が訪問しそこでの支援を保育士や教員と共に考えていくサービスになります。

 

その為、訪問支援員には高度な専門性とともに知識や経験(柔軟性)が必要になってきます。

※国は訪問支援員の経験年数に応じた報酬単価の設定をおこなっていることからも訪問支援の質の担保として支援者の実務経験を重視していることが分かる。

 

しかしながら、これらの基準に該当するような作業療法士や言語聴覚士とよばれるような医療職(便宜上のくくりとして)を確保していくことが福祉分野においては難しく。結果として、このサービスが広がりにくくなっています。

 ※作業療法士や言語聴覚士の多くは医療機関(病院)に従事している

 

現在、淡路児童発達支援センターでは、常勤・非常勤を合わせて言語聴覚士は3名、作業療法士は2名の計5名の医療職が勤務しており、病院だけではなく保育園や学校等、様々な施設での支援経験を積んできた職員です。

 

そのような職員が「保育所等訪問支援」や「訪問相談支援」を実施しています。

 

話を戻して、ここからは、厚生労働省がなぜ「保育所等訪問支援」というサービスを創設したのかについてお話ししていきます。

 

従来から発達障害児に対する支援の中心的な役割を担っていたのは個別療育という形態でした。

個別療育とは、施設(主に病院や児童発達支援センターなど)に保護者と子どもが通いそこで支援を受けるというサービス形態です。

 

しかしながら、そのような個別療育には課題や問題があることが指摘されていました。

これらの課題や問題を解決するために、「保育所等訪問支援」というサービスを厚生労働省が新設したという流れがあります。

 

「保育所等訪問支援」によって課題や問題がどのように改善していくのかについては下記になります。

淡路市児童発達支援センターでは3年前から地域福祉課(淡路市)とも連携を密に図りながら「保育所等訪問支援」に力を入れて取り組んでいます。

 

また、保育園や学校現場でも保育士や教員が医療職(作業療法士や言語聴覚士等)と連携を図っていく重要性の認識が変化してきたことから、今年度から淡路市では独自の福祉政策として「訪問相談支援事業(淡路市福祉事業)」も始まりました。

 

 

「保育所等訪問支援」や「訪問相談支援」はこれからの時代に必要とされる“未来志向型の支援”なのです。

 

 

もし、日々の生活場でのある保育園や学校で子どもに対する支援を受けたいとお考えの保護者の方がおられたら、淡路市児童発達支援センターか地域福祉課に一度お問い合わせをしてみて下さい。



第10回 発達障害の専門家て誰ですか?

知的障害、自閉症、ADHD、学習障害等の子どもに対しての専門家て誰ですか?

 

実は、多くの方が誤解していますが、作業療法士や言語聴覚士などは発達障害の専門家ではありません。

 

あくまでも、作業療法士は身体機能や認知機能の発達に関してのスペシャリストであって、言語聴覚士もコミュニケーションや言語の発達に関してのスペシャリストです。

 

また、医師も同様に発達障害の全ての症状を手術や服薬治療などを用いて一人で治せるわけではありません。

 

発達障害の症状は多岐に渡ります。その為、特定の職業だけでは発達に関する全ての領域をカバーできないことからも多職種がそれぞれの専門とする領域で力を発揮しながら支援にあたることが求められます。

 

専門家とは、あくまでもある特定の領域において深い専門性を有している人達ということになります。


一方で、専門家(スペシャリスト)の対局にあるのが万能家(ジェネラリスト)と呼ばれる職業の方達です。

 

万能家(ジェネラリスト)に、求められる能力は幅広い知識や経験です。

日常的に接する機会のある職業としては、保育士や教師が該当するのではないでしょうか。

ただし、本来は保育士や教師といった職業は、専門家(スペシャリスト)の面があります。

保育士であれば保育学、教師であれば教育学といった専門性を有しています。


しかしながら、時代の変化ともに特にこれらの職業には幅広い知識や経験が求められるようになり現在では万能家(ジェネラリスト)の側面が強く要求されてきたように思います。

その為、保育士や教員が有している専門性も発達障害支援を考える際にはとても有益なのですがあまり世間的には専門家と捉えられていないから発達障害に関しては専門の先生に相談して下さいと言われることが多く無いでしょうか?


 

著書としては、万能家と専門家ではそれぞれ違った良さがあります。

万能家は、幅広い分野での知識や経験を有しており、多角的な視点から課題に対応ができます。

専門家は、特定の分野での深い知識や技能を有しており、専門的な視点から課題に対応ができます。

 

それぞれの良さを最大限に活かしていく為には、お互いをリスペクトする姿勢が大事です。

はじめに述べたように発達障害の専門家なんて人はこの世の中には存在しません。


あくまでも専門家とはある特定の領域においてのスペシャリストなのです。

 

相手が医師や作業療法士、言語聴覚士だからと言って過剰に相手をリスペクトする必要はありません。


時には、万能家の側面をお持ちである保育士や教師の方が課題に対しての解決策をお持ちの場合もあります。


それぞれの職業の立場は対等であり様々な視点から意見やアイデアを出し合えるそんな関係性を淡路市で作っていけたら嬉しいですね。



第11回 人間万事塞翁が馬

仕事でも子育てでも充実した毎日を送っている時もあれば、些細な理由から気持ちが落ち込んだり、不安になって目の前のことが手につかなくなることがありませんか。

 

そして、この不幸や不安が永遠に続いて暗いトンネルの中から抜かせないのじゃないかと思うことも。

 

そん時には、「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじさいおうがうま)という諺を思い出してみてください。

 

この諺のお話は中国の古典である「淮南子」に書かれています。

 

お話の概要は、中国のある村に占いの上手な翁(老人)と息子が住んでいました。

ある時、老人が大事に飼っていた馬が逃げてしまったので、村人は老人に同情しました。

しかし、翁(老人)は「これは幸運が訪れるかも知れない」と言います。

そして、数日後に逃げた馬は立派な馬を連れて帰ってきました。

 

今度は、村人が老人を祝福すると「これは不幸の兆しかも知れない」と言います。

しばらくすると息子がその馬から落ちて足の骨を折ってしまったのです。

 

村人たちは、また同情しましたが、老人は「これは幸運の前触れだ」と話しました。

その後、その村では周辺の国との戦争が激しくなり若い男たちは戦争へ駆り出されて命を落としていったのです。

しかし、老人の息子はその怪我のおかげで戦争に行かずに済んだのでした。

 

このお話からは、人生は、良いことも悪いことも予測はできないので安易に喜んだり悲しんだりするべきではないということ教えてくれます。また、何が良くて何が悪いのかは後になってみないとわからないという意味も込められています。

 

人はどうしても嫌なことがあったり思いもよらないことが身の上に降りかかると、すぐに、「私は不幸だ」とか「私だけが何でこんな辛い思いをしないといけないのだ」と憤ったりしますが、それは実は良い事に繋がっていたりすることもあります。

 

私自身もこれまでに多くの子どもたちの言葉の発達支援に携わってきました。

 

その中でとても印象に残っているエピソードとして言語聴覚士になりたての若かりし頃に、ある保護者の方から「あなたに見てもらってもうちの子どもは良くなりません」と言われたことがありました。

 

その当時は、とても落ち込んだものです。

 

でも、今になって思えば、若い頃にそのようにおっしゃってくださる人との出会いがあったからこそ、自分は未熟であることを痛感して素直にいろんな人を見て話を聞いて学ぶことができたと思っています。

 

今も一生懸命頑張って取り組んでも失敗したり上手くいかないことはありますが、そんな時こそ「人間万事塞翁が馬」という言葉を思い出すことで前向きな気持ちになれます。

 

うまくいかない時こそ、「人間万事塞翁が馬」の考え方をしてみてはどうでしょうか。



第12回 子どもにとって良い学習環境とは

発達を促していく為には、子どもにとって良い学習環境を整えていくことが大切です。

では、子どもにとって良い学習環境とはどのような環境なのでしょうか?

 

心理学者のVigitsky(ヴィゴツキー)は、子どもにとって良い学習環境を「発達の最近接領域」と呼びそのような環境を整えることで子どもの発達を効率的に促していくと述べています。

 

では、「発達の最近接領域」とは何か?

Vigitsky(ヴィゴツキー)によると、自分一人ではできないけれども少し手助けをしてもらえると出来るようになるようなこと。その領域(環境)を「発達の最近接領域」と論じています。

 

わかりやすく言うと、子どもにとって難しすぎる課題に取り組ませることはその課題を解くために必要なスキルが十分に育っていないために学習を積み重ねることができないということです。また、子どもにとって簡単すぎる課題も子どもがすでに獲得しているスキルをさらに発展させる必要性がないために結果として発達を促す事にはつながらないということです。

 

つまり、少し頑張ればできる課題やはじめにちょっと手伝えばあとは自力でも解いていける課題を用意してそれに取り組ませていくことこそが子どもの発達を効率的に促せることができる環境であるといえます。

なかなか、具体例がないとイメージが湧きにくいので赤ちゃんの運動発達を例に考えてみることにしましょう。

寝返りが出来るようになった頃の赤ちゃんにとっての「発達の最近接領域」とは、座ることを目標とした学習環境を整えていくことが望ましいと言えます。

早く成長して欲しいと思っているからといって、つかまり立ちや歩くといった学習に取り組ませても寝返りがようやくできた赤ちゃんにとっては難しすぎる課題であって成長を促す事にはならないと言うことです。

発達には順序性(いわば段階)があります。階段を一段一段登るように、現在の発達段階から次の目標を見極めて学習環境を整えてあげることで発達を効率的に促していくことが出来ます。