専門家(保育士、言語聴覚士、作業療法士等)が、発達についての“あれこれ”を記事にしていきます。
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第13回 子どもにとって良い学習環境とは(前回からの続き&発達検査の活かし方)
子どもにとって良い学習環境とはということで第12回の記事を書きました。
今回はその続きとして、良い学習環境を考える時の発達検査の活かし方について書きたいと思います。
発達検査は幼児期であれば1年に1回程度、学齢期になると2年に1回程度の頻度で検査を受けることが多いのではないでしょうか。
発達検査の目的は、その子の特性を把握しその子に合った支援が受けらえれるようになるために取ります。
では、その発達検査の結果を日々の生活に活かせていますか?
発達検査を取ると多くの場合は医師や心理士などから検査結果について丁寧な説明は受ける機会が設けられていると思います。
しかしながら、中には検査結果が数値だけの場合もあるかと思います。
そんなときに、自分でもある程度検査結果の見方(解釈)を知っていれば日々の生活に発達検査を活かすことができます。なので、この機会に少し勉強してみませんか。
検査結果の解釈に関しては、深く知ろうとすると事前に発達に関する膨大な知識が必要になりますので、今回はそのような知識が未熟な方でも活かしやすいポイントに絞ってお伝えします。
ずばり、今回は検査結果の“数字(値)”にスポットをあてて見方(解釈)とそこから考えられる支援を考えていきます。
まず、発達検査に関してですが、実は発達検査には様々な種類の検査キッドがあります。地域が異なれば発達検査に用いる検査キッドも異なります。
淡路市のように関西圏にある地域では主に新版K式発達検査が発達検査に用いられることが多いです。
新版K式発達検査では、『発達指数』と『発達年齢』の2つの数字で発達の様相が示されます。
『発達指数』とは?
賢さを表す数値として“IQ(知能指数)”と言う値はよく聞いたことがあると思いますが、それに近い概念のものが新版K式発達検査であれば“DQ(発達指数)”になります。
『発達年齢』とは?
何歳のレベルの発達段階と同程度であるかを表す数字
保護者や先生方が発達検査を受けた結果として気にされることが多いのは『発達指数』の値ではないでしょうか。
『発達指数』の値の水準は以下になります。
「平均」は、100
「軽度知的障害」は、70以下~
「中等度知的障害」は、50以下~
「重度知的障害」は、30以下~
『発達指数』の数字でわかることは検査を受けた子どもが同年代の子どもを平均とした場合にどの程度の発達を遂げているかと言うことわかります。
しかしながら、『発達指数』の数字だけがわかってもその子にとって良い学習環境(発達支援)を考えていくことは出来ないのです。子どもにとって良い学習環境(発達支援)を考えていくには、実は『発達年齢』の方が多くのヒントを与えてくれます。
具体例を出して考えていきましょう。
『発達年齢』をもとにA君にとっての良い学習環境(発達支援)と考えていくと
・姿勢−運動領域であれば、3歳1ヶ月
・認知−適応領域であれば、1歳8ヶ月
・言語−社会領域であれば、1歳4ヶ月
各項目において、この年齢にある子どもが次に取り組むような課題(目標)に取り組めるような学習環境を整えてあげることで発達を効率的に促すことができると言えます。
年齢を重ねると体が大きくなっていきます。しかしながら、体の大きさに合わせた接し方(言葉かけのレベルなど)をしてしまうと、内面の知的発達に差がありゆっくりと成長してきている子どもにとっては難しい学習課題や言葉でのコミュニケーションになってしまう可能性があります。
内面の知的発達を促す為には、体のサイズではなく『発達年齢(内面の成長度合い)』に合わせた接し方を心がけてあげることが大事ということです。
『発達年齢』がわかることで、子どもにとって良い学習環境や日々の関わり方を整えていくことができるのです。
ただし、発達に凸凹がある特性を持っている子どもなどは『発達年齢』といった平均の数字では測れない強みや苦手さがあるのでそこにも配慮した支援を検討していく必要があります。
それを理解するためには、子どもの発達や発達検査に関する書籍を読んでみたり専門の先生に話を聞いてみるなどしてより深い発達支援に関する知識を身につけていくことが求められます。
今回は、子どもにとって良い学習環境を考える際の発達検査の活かし方について考えてみました。
検査を取る機会があった時には、『発達指数』だけではなく『発達年齢』も気にして見て下さい。
第14回 「様子をみましょう」ではなく「今から出来ることをやってみましょう」に変わっていけたら
「様子をみましょう」という言葉は、発達支援の現場ではよく使われる言葉の一つです。
なぜ、「様子をみましょう」という言葉が使われるのかというと、子どもに明確な発達の遅れや障害の有無が判断できない場合があるからです。
そもそも、いくつかの発達障害が疑われる行動は正常発達でも時期によっては見られることもありますしその子の生活している環境や保護者もしくは支援者(保育士や教員)などの関わり方によって似たような行動が見られる場合もあります。
また、子どもの発達のマイルストーン(何歳にどの程度の事が出来るようになるのか)はあるものの、子ども一人一人で発達のスピードや特性も千差万別です。
園の先生や保健師から勧められて専門機関に相談に来られた場合、まず、子どもの様子を観察し保護者から聞き取りを行ったとしてもその相談時間の中だけでは判断が難しく迷うことがあります。
ただし、私が相談を受けた際に可能性の問題として発達の問題があるかもしれないといった場合には、「様子をみましょう」という言葉を使うことは極力控えています。
理由としては、もし仮に発達の問題があったとしたら保護者に対して「様子を見ましょう」と伝えると後から振り返った時に様子を見ていた期間が無駄になってしまうからです。
その為、相談に来られた保護者に対しては、例えば、同年代の子どもの発達の特徴(例:どの程度の語彙数を話せるのか、文章の長さは何語文か、コミュニケーション場面においてどのような反応を見せるのか等)をお伝えしたり、もし、同年代の発達の特徴がまだ見られていない場合には子どもの発達に応じた家庭でできる関わり方や環境の調整の仕方などを具体的にお伝えしています。
相談時には「様子を見ましょう」だけではなくて、「どのような視点で子どもの発達を気にかけて見ていけば良いのか」や「どのように関われば発達を促せるのか」等を具体的に伝えていくことが大事なポイントなのではないかと思っています。
また、相談の最後には、「次の相談に来るタイミングの時期(目安)も必要であれば伝える」ようにしています。
相談を受ける側の人間にとっては「様子を見ましょう」という言葉は大変都合のいい言葉なのですが、保護者にとっては、不安が解消されない中で子育てをしなければならなかったり、次にいつ相談したらよいのかの判断が出来ずに適切な支援を受ける機会を喪失してしまうなど弊害が多いのではと感じています。
一方で、このような話をすると、「不安をあおりすぎるのは良くない」といった反対の意見も聞かれますが、むしろ、相談後に家庭で相談時にお伝えさせていただいた内容を実践していただいて気になる点がすぐに改善されたり、特に問題なく成長していけば後で振り返った時に「その時には心配すぎていただけだったんだな」と取り越し苦労としての思い出話で終わる方が子どもや保護者にとって良いことなのではないでしょうか。
長年、療育に携わった経験上、早期の段階から適切な支援(子供だけではなく保護者に対しても)を受けてきたケースでは保護者と子どもの間には良好な関係性が築けている場合が多い印象です。
そのようなことからも、発達相談を受ける専門家は、「様子をみましょう」と相談を受ける側にとって都合の良い言葉を使い問題を先送りにするではなく「今から出来ることを始めてみましょう」と保護者が具体的にどのように動いていけばよいのかの道筋を作ってあげるような支援の方向性に変っていけば結果としてより多くの子どもや保護者の将来が豊かなものになるのではないでしょうか。
また、相談を受ける際に私が大事にしているもう一つのことは、自分だけで判断が出来ないことや難しいことがあれば、相談者に対して「わからない」とはっきりとお伝えすると言うことです。
何でもわかる人間なんていません。でも、相談を受けたのだから「わからない」とは言いずらい。でも、そんな時にこそ「そのことについて私にはわからないので、専門の先生を紹介するからその先生に聞いたらいいよ」と言えること(適切な支援につないであげられること)も大事なのではないでしょうか。
発達に関する問題は多岐に渡ります。一人で抱え込まずにみんなで考えてみんなで解決していくということは保護者だけではなく支援者にも言える事です。
日頃から支援者同士で助け合える関係性(つながり)を持っておくことは、相談支援を充実させていくための大事なピースなのだと思います。