専門家(保育士、言語聴覚士、作業療法士等)が、発達についての“あれこれ”を記事にしていきます。
記事一覧
第1回 「コミュニケーション」って何だろう?
第2回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その1)サブタイトル:家庭で取り組める言葉の育て方
第3回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その2)サブタイトル:インリアルアプローチの基本となる姿勢(基本編)
第4回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その3)サブタイトル:インリアルアプローチの技法(基本編)
第5回 石を積む職人(寓話)
第1回 「コミュニケーション」って何だろう?
ここ最近、コミュニケーション力という言葉を、テレビやネット、雑誌でよく見聞きするようになりましたね。
でも、よく見聞きする言葉でも「コミュニケーションって何だろう?」と、言われるとすぐにこたえられる人は少ないのではないでしょうか。
日本では、「コミュニケーション=会話、情報伝達」等と一般的に訳されますが、“communication”の語源は、ラテン語の“communis”(com=共有・共に、munus=贈り物)で、「共有すること、分かち合うこと」と言われています。
“communis”
(com=共有・共に、munus=贈り物)
ことばの語源を知ることは、コミュニケーションの本質を理解する上で重要です。
つまり、「コミュニケーション」とは、相手が話したり書いた言葉に限らず、動作やしぐさ、はたまた絵(おえかき)や歌でも伝えようとしていることを受け手が感じ、その意味を共有できることが、“communication”の本質ということになります。
しかし、今の日本では、“communication”は、単に「上手に相手に言葉で伝えられるようになること」ということでとらえられていることが多いと感じます。
「コミュニケーション」で、大切なことは、ただ情報を伝えるだけではなく、相手が伝えたい意味や感情をお互いが心で通じ合い情動を分かち合う関係を築いていくことです。
言葉がまだ十分に話せない赤ちゃんでも、お父さんやお母さんの言ったことに言葉では返せなくてもきちんと反応することで、立派にコミュニケーションが成り立っています。
発達障害の子どものことばの相談を受けた際に、「言葉が話せないのでコミュニケーション出来ません…」、「この子は、まだ話せないからコミュニケーションが取れなくて…」といったお話を聞くことがありますが、そのように周りから思われている子ども達と関わってみると、実は、その子なりの方法でしっかりとコミュニケーションを取ろうとしていることに気づかされます。
コミュニケーションで重要なことは、伝え手側の「伝える力」だけではなくて、受け手側の「分かち合うこと、共有する力」も大切な要素です。
「ことばが話せるようになるのか」、「どうやってことばを話させるか」といった不安もあるかもしれませんが、「子どもの気持ちや想いをいかに上手に受け取り子どもと共有していく関係性を作っていくのか」という事が、実は、ことばの発達を促していく上で最も大事な姿勢だったりします。
ことばが生まれる(育つ)ためには、子どもと大人が気持ちを分かち合い・共有するコミュニケーションを繰り返し経験していくことが大切です。
そのような関係性の中から、子どもの中に、他の人と気持ちを響きあわせたい、自分の気持ちを伝えたい、といった心が育つことで、コミュニケーションの道具としてことばが生まれてきます。
第2回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その1)サブタイトル:家庭で取り組める言葉の育て方
前回の記事では、ことばが生まれる(育てる)ためには、お互いの情動を共有させるコミュニケーションが大事であることをお話ししました。
第2回からは、そのようなコミュニケーションを子どもと取れるようになるための具体的な関わり方のヒントになる言語訓練技法である“インリアルアプローチ”をご紹介します。
インリアルアプローチは、インリアル(INREAL)は、Inter Reactive Learning and Communication の略で、米国コロラド大学のワイズ(Weiss,R.) らによって開発されたコミュニケーション指導法です。
インリアルアプローチでは、大人が子どものサイン(ことば、ジェスチャー、視線等)をうまく汲み取り、適切に反応していくことで、子どもの話したいという意欲や自分がもっているコミュニケーション手段で相手と通じ合えるという自信を育てていこうとするものです。
インリアルアプローチを説明に入る前に、事前の知識として、
コミュニケーションには、段階が4つあるということを、まずは、学んでいきましょう。
◎コミュニケーションの4つの段階
①聞き手効果段階
【目安となる時期】生後~10カ月頃
【コミュニケーション方法】子どもの意図を聞き手(大人等)がくみ取り解釈していく
②意図伝達段階
【目安となる時期】10カ月~1歳頃
【コミュニケーション方法】子どもが自分の意図(要求や考え)を何らかのコミュニケーション手段(指さし、発声等)によって伝えられるようになる
③命題伝達段階
【目安となる時期】1歳~1歳4カ月頃
【コミュニケーション方法】ことば(単語)で自分の意図を伝えらえるようになる
例)「ママ」、「パパ」、「まんま」、「こっち」等
④文と会話段階
【目安となる時期】1歳半~2歳頃
【コミュニケーション方法】言葉と言葉をつないだ文章での表現が出来るようになる。3歳頃からは大人の会話に近いやりとりができるようになる
例)「おやつ食べる」、「くるまのる」、「パパと公園でブランコに乗った」等
コミュニケーションには、段階があることはなんとなく理解できたでしょうか?
今、目の前にいる子どもは、コミュニケーション段階はどの段階だったでしょうか?
コミュニケーション段階を把握していくことは、これからお話しするインリアルアプローチの技法を考える時の手掛かりになります。
今回は、ここまで。
第3回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その2)サブタイトル:インリアルアプローチの基本となる姿勢(基本編)
さて、ここからは本格的に「インリアルアプローチとは?」について学んでいきましょう。
◎インリアルアプローチの基本的な考え方
インリアルアプローチは、聞き手側(大人等)の接し方の工夫により、子どもとの相互的なやり取りを促し、その中でことばの意図の理解や表現を促していく言語指導方法(語用論的技法)の一つです。
自由な遊びや会話の場面を通じて、子どものことばやコミュニ―ション能力を引き出すために、日常の生活の中にも取り入れやすいことも特徴です。
「言葉が遅れている。」、「言葉の発達が心配。」
そのような悩みを身近な支援者に相談すると、言語の訓練を勧められて言語訓練に通っている方は多いと思います。
では、皆さんは、言語の指導(訓練)にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
言語の指導(訓練)は、病院などの個室で先生と子どもが机を挟んで一対一の対面で向き合って言葉の指導(訓練)を受けるものというイメージをお持ちではないでしょうか?
現に、多くのセラピスト(言語聴覚士等)は、個別の言語指導(訓練)をそのような形で実施しています。
では、利用者側ではなくて、言語聴覚士側が考える言語の指導(訓練)をQ&A形式で考えていきましょう。
Q.「言語の指導(訓練)は、個室で一対一でないと出来ない?」
A.答えは、Noになります。
Q.「病院や福祉施設で、言語の先生の個別訓練を受けないと言葉は伸びない?」
A.答えは、Noになります。
Q.「言語の指導(訓練)は、家庭(日常生活の中)でも出来る?」
A.答えは、Yesです。
でも、言語の指導(訓練)が家庭の中でも出来るなんて、そんなこと言われても難しいですよ!!
そ、そうですよね。。。
家庭の中でも出来るって簡単に言われても、時間もない、場所もない、教材もない、そもそもどうしたらいいのか分からない。
なんて、ことを思われたのではないでしょう?
でも、わたしたちは、子供の頃にことばをどんなところで学んできましたか?
「子どもの頃に、言葉の先生(言語聴覚士)にことばを教えてもらいましたか?」
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟姉妹、保育園の先生等、まわりの人たちが話すことばを聞いて自然に学んでいったのではないですか?
ことばの学習は、実は、日常生活の中にこそたくさんの学びの機会があるのです。
そして、それは、言葉の発達がゆっくりな子ども達も同じです。
では、どうしたら言葉を伸ばせるのかのかその具体的な方法がインリアルアプローチになります。
前置きが長くなりました。
最後に、今回の記事で覚えていただきたいことを書かせていただいて今回のまとめとさせていただきます。
キーワードは、「SOUL」、これだけは、しっかりと覚えて下さい。
「SOUL」とは、インリアルアプローチの中で、子どもと関わる時の基本的な姿勢を表しています。
・S Silence:静かに見守る
子どもが場面になれ、自ら行動を始めるまで「静かに見守る」姿勢
・O Observation:よく観察する
コミュニケーション能力や情緒、認知、社会性、運動など発達状況を「よく観察する」姿勢
・U Understanding:深く理解する
子どものコミュニケーションの課題や問題について「深く理解する」姿勢
・L Listening:耳を傾ける
子どものことばやサインに十分に「耳を傾ける」姿勢
第4回 コミュニケーションを育てる“インリアルアプローチ”について(その3)サブタイトル:インリアルアプローチの技法(基本編)
前回の記事では、インリアルアプローチの基本的な姿勢を説明しました。
今回は、インリアルアプローチの技法を説明したいと思います。
インリアルアプローチでは、以下の技法を用います。
①ミラリング
②モニタリング
③パラレルトーク
④セルフトーク
⑤リフレクティング
⑥エキスパンション
⑦モデリング
それでは、それぞれの技法について、詳しく見ていきましょう。
①ミラリング
内容:子どもの行動を真似していきます。
例)子どもが手をあげたら、大人も同じように手をあげます
②モニタリング
内容:子どもの発した音声を真似していきます。
例)子どもが「あー」といえば、大人も子どもの視線に合わせて「あー」といいます。
③パラレルトーク
内容:子どもの気持ちや行動を言語化していきます。
例)子どもが動物園で、キリンを指さしたら、大人は「キリンさんだね。」と言葉をかけます。
④セルフトーク
内容:大人の気持ちや行動を言語化します。
例)子供とご飯の時間にハンバーグを食べた時に、「ハンバーグ、美味しいな」等、大人の気持ちを言葉にして伝えます。
⑤リフレクティング
内容:子どもの言い誤り(発音や文法)に対して、正しい言葉を大人が代わりに言い直して聞かせてあげます。
例)子どもがエレベーターを間違えて「エベレーター、乗る」と言った時には、「エレベーター、乗ろうね」。と、否定せずに正しい言葉に置き換えて伝えてあげます。
⑥エキスパンション
内容:子どもの言葉を意味的に広げて返します。
例)子どもが車遊びをしているときに「ブーブー」と言ったら、大人は「ブーブー、走っているね!」等のように言葉の要素を付け加えて表現を広げて提示してあげます。
⑦モデリング
内容:新しい言葉のモデルを提示します。
例)リフレクティングやエキスパンションは子どもの話した言葉に要素をつけ足して言葉の表現を広げるのに対して、モデリングは新たな言葉のモデルを提示していきます。
インリアルアプローチの7つの技法は、用途(何を目的とするのか)に合わせて分類すると幾分覚えやすいかなと思います。
1つ目は、「模倣」
①ミラリング(行動)
②モニタリング(音声)
2つ目は、「言語化」
③パラレルトーク(子どもの行動の言語化)
④セルフトーク(自分の行動の言語化)
3つ目は、「子どもの表現力の広がり」
⑤リフレクティング(既存の子どもの言葉の誤りの修正)
⑥エキスパンション(意味や文法を広げる)
⑦モデリング(新しい言葉をモデルで示すこと)
はじめは、覚えることや実際に子どもとの関りの中で意識することは難しく感じるかもしれませんが、繰り返し、繰り返し取り組むことで自然と意識せずに上手なコミュニケーション(言葉の発達支援)ができるようになります。
因みに、言語聴覚士が子供と関わる時には、このインリアルアプローチの技法を組み合わせながら言葉の発達を促しています。
一見するとただ遊んでいるように見えても、実は、子どもの発達段階やコミュニケーションの取り方を言語聴覚士は、逐一気にかけながら最適な言葉かけや動作的表現を模索しています。
日々の何気なくしている言葉かけや関わりも、実は、突き詰めていくと奥が深い事に気づいてもらえたかと思います。
最後に、インリアルアプローチは、特定の課題や学習法というよりは、日々の子どもとの関わりにおける工夫と言えます。
あくまで、言葉の発達を支援する基本となる考え方と思ってもらえると良いかなと思います。
何事も、基本が大事ということで、基本が出来ればそこからいくらでも応用していく事が出来ます。
まずは、このインリアルアプローチを日々の生活の中で取り入れてみてはどうでしょうか?
第5回 石を積む職人(寓話)
「石を積む職人」という有名な寓話があります。
教会を造っている場所を通りがかった旅人が、
石を積む職人に、「何をしているのですか?」と尋ねます。
1人目の職人は、「自分の暮らしの為に、石を積んでいるところさ」と答えました。
2人目の職人は、「壁を造っているところさ」と答えました。
3人目の職人は、「教会を造っているところさ」と答えました。
最後、4人目の職人は、「私は、ここに来る人達が心を穏やかに過ごせる空間を創っているところさ」と答えました。
この4人は全て同じ石を積み上げるという仕事(職人)をしているのに、旅人の質問に対する答えはそれぞれで異なっています。
このお話から、読み解けることは、「あなたにとっての仕事とは何か?」という事です。
1人目や2人目の職人にとっての仕事は、自分の生活を成り立たせる為や言われた事をやっているだけの作業であるということです。
3人目の職人にとっての仕事は、目的を持った行為であるということです。
そして、4人目の職人にとっての仕事は、その仕事が生み出す価値や意味を深く考えた上で誰かの為になすといった人生の意義であるという事です。
児童発達支援センターの立ち上げを進めて行く中でもこの「石を積む職人(寓話)」は事あるごとに頭に浮かびました。
そして、ようやく今年の4月から児童発達支援センターが淡路島で唯一の施設として歩みを踏み出すと同時に新たに理念も創りました。
それは、この寓話から得られる教訓を言葉にして児童発達支援センターのこれから進むべき道を明確に定めたいという想いがあったからです。
淡路市児童発達支援センターで働く一人一人の職員が、この4人目の石積み職人のように自らの仕事が生み出す価値や意味を深く考えながら誰かの為になるような人生の意義を見つけ出せる仕事を通じて地域に貢献していけるようになることが、この児童発達支援センターを淡路島で創りこれから歩み続ける中で最終的に行き着く先であると考えています。
まだまだ、歩みは始まったばかりで道は長いですが大切な職員達と共に一歩ずつ前に進んでいけたらいいなと思っています。
たまには、こんな小話も記事にしてみました。